第8回 公示制度

9月28日の日経に面白い記事が掲載されていました。

記事によれば、個人の所得税の高額納税者(納税額一千万円以上)の公示で、自分の名前が載るのを避ける為、土地を売った所得を申告せず、後日修正申告した鳥取県の自動車学校元理事長夫婦が、鳥取税務署による過少申告加算税の課税処分は、違法として、取り消しを求めた訴訟の控訴審判決が広島高裁松江支部で言い渡されました。

裁判長は、「夫婦は、早い段階で納税の意思を持っており、自発的な納税といえる」として、課税処分を取り消した一審・鳥取地裁判決を支持し、税務署側の控訴を棄却したものです。

この記事には少し説明が必要かもしれません。
日本では、昭和22年の申告納税制度(納税者自らが税額を計算し、申告書を作成し納税する制度)の導入時に、納税者相互間の納税意識を牽制するため、公示制度を採用しました。具体的には、前年度の高額納税者の名前とその税額を公示しているのです。

この公示は別名「長者番付」とも呼ばれています。実際、かなり儲かっていると思われる人が、高額納税者に名前が載っていないと、どのような申告をしているのか興味を持つので、納税者が、正しい申告を自主的に実施するのではないかとの趣旨から設けられました。

今回の事件は、高額納税者に名前を掲載されたくない人が、その掲載を免れるため、申告書の提出期限後に正しい税額を計算した修正申告書を提出した場合、そのペナルテイーを受けるべきなのかどうかを争ったものです。私も、クライアントの社長から、従業員の給与を引き下げた手前、自分の報酬は、高額納税者として公示されない限度額まで引き下げてほしいと頼まれたことがありますが、実際のところ当初予定していた、この制度の趣旨は、かなり薄れていると思います。

確かに現在の公示制度は、新聞等に名前が公表されるので、マスコミからの取材や、ダイレクト・メール等が増え対応が大変なようです。

申告書の公示制度自体は、わが国に申告納税制度が導入された当時その定着を図る目的から創設されたものでしたが、現代的には、単に興味本位にマスコミに報道されるにとどまり、むしろ個人のプライバシーが問題になってきたので、時代にそぐわない制度であるように思いますし、今回の事件のような無意味な過少申告を誘発することは、制度的にも欠陥があるとしか言いようがありません。

アメリカ、イギリス、ドイツでは、公示制度自体ありませんが、その代わり、脱税の情報を提供した人に情報提供料として報奨金を支給する第三者通報制度を設けています。

最近の牛肉偽装、原発の事故等のような内部告発制度の充実が、税金の世界でも必要になってきたのかもしれません。

ただし、毎年、公示制度により名前が公示されている人は、この制度が無くなると、公示の時期、自分の名前が新聞に掲載されなくなってしまうので、寂しくなってしまうのかもしれませんね。

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