第13回 戦場ジャーナリストと自己責任について
先週、3年に亘ってシリアの武装勢力に拘束されていたフリージャーナリストの安田淳平氏が解放された。
安田淳平氏は、外務省の渡航自粛、退去勧告を無視して自らの意思でシリアに入国した。
また、その以前から「安全性を理由に渡航を制限する日本政府に対してチキン国家」だと痛烈な批判を繰り返していた。
そんな言動にもかかわらず、今回、日本政府の尽力もあって解放に至ったことから、ネットを中心に多くのバッシングが沸き起こっている。
「自ら紛争地域に入り拘束されたのだから自業自得だ」
「情報収集などでかなりの税金が使われた」
「自己責任で行って、あげく助けてって迷惑」
「今回の解放にかかった費用を国に返済していくべき」
「彼が帰国後、この件で利益を享受する事があってはいけない」
自分も、なんとなく頷いてしまいそうな感情が芽生えた。しかし・・
まず、なぜ日本政府は渡航自粛、退去勧告を無視した人まで解放に向けた活動を行う必要があるかといえば、自国民の生命保護は国家の責務と考えられているからだ。
根拠法は以下の憲法第13条だ。
憲法第十三条
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
日本政府は、無謀な冒険者であっても、悪ふざけの目立ちたがり屋であっても、たとえ犯罪者であっても、対象者が日本の自国民であれば生命保護のため最大限の努力をする必要があるのだ。
この憲法を変えるのは、戦争放棄を明記した第9条を変えるより大変そうだ。
なぜなら、保護する対象者を区別することは、結果として日本政府の方針に従順な人は保護し、批判的で都合の悪い人は保護しないということにつながる。日本が民主主義国家である以上、これはできない。
欧米をはじめとした世界の民主主義国も、たとえ本人に責任があろうと無かろうとテロリストに拘束された自国民の保護に力を注いている。
ということで、いったん国家として自国民の保護活動を行うことは民主主義国として当然だとしておこう。
では、果たして安田淳平さんのように渡航自粛勧告を無視するような戦場ジャーナリストの行動は非難されるべきなんだろーか??
そんなことを考えていたら、ネットでこんな4コマ漫画をみつけた。
https://twitter.com/yujinfuse/status/1055088227344801793/photo/1
事実を伝えるジャーナリストがいなければ多くの人の命が危険に晒されていることも知らされず、その結果、数多くの罪なき人々の命が犠牲になる危険がある。ジャーナリストが実態を伝えなければ、そんな犠牲を防ぐための国際的な活動もできない。
日本政府としても、現地で行われている事実を把握できなければ、誤った外交政策を行ってしまうこともある。
戦場ジャーナリストは、時に拘束され、場合によっては命を奪わる。
彼らは、その責任を一切、誰にも転嫁せず、すべてを受け入れなければならない。
それだけで既に一定の自己責任を負っているのではないだろうか?
伝えるべき事実があっても、政府の判断に従って取材しないというのは、もはやジャーナリズムとは言えない。
仮に政府に盾突いている人物であっても、拘束され命の危険にさらされた場合、日本という国が、彼らの救出に向けた最大限の活動を行うのだということに、自分としては民主主義国家としての誇りを持ちたい。
