第15回 カルロス・ゴーンと籠池夫妻の事件にみる共通点
日産自動車を瀕死の状態からV字回復させたカルロス・ゴーン前会長が逮捕されました。
私が法学部出身ということもあって、この事件には強い関心があり、気になることをちょっと書いてみたいと思います。
経済界の超有名人物を特捜部は逮捕する以上、確実に起訴できる(=裁判にかけられる)、そして有罪にできるという相当の自信があったのでしょう。
ただ、個人的には、起訴できない可能性が50%程度あると思います。また起訴できたとしても、裁判で検察が敗訴する可能性も50%程度ではないでしょうか。つまりカルロス・ゴーン前会長は起訴され、更に最終的に有罪となる確率は25%とみています。
容疑となっている有価証券虚偽記載の罪は、悪意(=故意性)があることが要件です。うっかりミスは免責されます。
カルロス・ゴーン前会長は「同時に逮捕された弁護士でもあるグレゴリー・ケリー代表取締役にすべて任せていた、金融庁にも相談したうえで不記載とした」と言っているようです。もしそれが真実であれば、「カルロス・ゴーン前会長本人が虚偽記載の認識をもっていた」と証明することは無理と思います。
さて、今後の事件の行方とはちょっと違うのですが、気になっていることがあります。カルロス・ゴーン前会長と籠池夫妻の事件の共通点です。「どっちも、私腹を肥やしたがり屋の強欲な経営者」ということではありません。
ご存知の方もいるでしょうが、日本で警察が誰かを逮捕すると、被疑者を書類送検(書類を警察から検察に送ること)まで最大20日間勾留する(=身柄を拘束する)ことができます。
そして起訴(=裁判にかけること)が決定した場合、検察官が請求し裁判官が認めれば、判決が確定するまで無期限で勾留(こうりゅう=身柄を拘束すること)が続くこともあり得ます。
補助金不正受給で起訴された籠池夫妻は、自らの罪を一切認めなかったので、約10か月勾留されました。また受託収賄罪などに問われた鈴木宗男元衆院議員は否認を続けた結果、1年2か月以上も勾留されました。
一方、村上ファンド事件の村上世彰(よしあき)氏は容疑を認め、起訴の3日後に保釈されました。
世界を見渡すと、南アフリカの指導者ネルソン・マンデラ氏やミャンマーのアウンサンスーチー女史、中国人反体制活動家劉暁波氏といった人々が自分の主義主張のために投獄されたことを、世界は高く称賛してきました。
自分の主義主張を貫くことでは、これら世界の英雄と籠池夫妻も変わりないはずですが、籠池夫妻は、誰が見てもインチキ芸人っぽかったので、長期勾留されても、世間は当然の仕打ちのような捉え方をしていた感じがしました。宗男さんの時もしかり。
今回、シナリオを描いているのは誰なのわかりませんが、カルロス・ゴーン=悪者という構図を無理矢理に作って、籠池夫妻の時と同じような社会の空気を作ろうとしている感じがしてなりません。
日本の司法システムでは、罪を認めれば保釈するが、認めない限り勾留を長期化し、自白を強要しているようにも映ります。
まだ有罪が確定していない人物(=被疑者、容疑者、被告人...段階によって呼び名が変わります)を拘束するのは、真実を突き止めるために限定的に認められたことであり、罪を罰するためではありません。しかし日本ではそれがセットになっていると感じます。封建時代の遺物のようで、現代においては完全にアウトだと思います。
カルロス・ゴーン前会長は起訴されても罪を認めることはないでしょう。なので長期勾留される可能性があります。そうなれば、インチキ風の籠池夫妻とは違い、人権問題として国際問題化しそうです。
また日本には、国家にも会社組織にも、一度方針を決定すると途中で無理だとわかっても、強引に最後まで突進する、悪しき国民性がありますよね。そのメンタリティが何度も冤罪を生んできました。もし本件で有罪にできないとわかったなら、特捜部は勇気をもって潔く引き返すべきです。そのとき自分は、逮捕を決断した特捜部を責めるのではなく、撤退を英断として称えたいと思います。
